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「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

「透析療法」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は腎不全の治療として導入される透析療法をメインに取り上げ、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

透析療法の基礎知識

推定糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満(CKDの重症度分類:G4)の患者は、腎代替療法(RRT:renal replacement therapy)である血液透析や腹膜透析、腎移植について教育を受ける必要があります。透析導入より3~6ヵ月以上前の腎臓専門医への紹介は、透析導入後の良好な予後が期待できます。多職種によるRRTの説明と教育を行うことが、腎障害進行速度の抑制、緊急透析の回避、RRTの選択に関連することが報告されています。

日本では慢性透析療法を受けている患者数が約35万人いて、台湾、韓国に次いで世界第3位の透析大国です。RRTは進行したCKD(慢性腎臓病)患者の生活の質(QOL)を改善させ維持することを目的としています。高齢または複数の合併症を有する患者は、RRTを望まない可能性があります。緩和ケアによる苦痛の軽減が重要です。

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透析療法の種類

透析療法には血液透析と腹膜透析があります。また、ここでは先述したRRTの1つ、腎移植についても紹介します。

血液透析

血液透析は、半透膜で隔てられた血液と透析液を対流させ、濃度勾配に逆らう対流と拡散によって血液中の溶質を除去します。週3回、4時間程度の通院治療が必要です。透析室での拘束時間に加え、透析中または透析後の低血圧、透析後の過度の疲労が問題となることがあります。

腹膜透析

腹部に留置したカテーテルから腹腔に透析液を注入します。腹膜が半透膜の役割を果たし、腹膜を介して拡散と浸透の原理により水と物質の交換が可能になります。この方法を連続携行式腹膜透析(CAPD)といいます。透析液の交換は1日に約3~4回行われます。日中に交換を行うこともできますが、サイクラーと呼ばれる自動腹膜透析装置を用いれば眠っている間に透析液を交換することができます。この方法をAPD(自動腹膜透析)といいます。

腹膜透析の利点には、時間の制約が少ないため自律性を高められることや穿刺の苦痛がないといったことが挙げられます。腹膜透析の生命予後は血液透析とほぼ同じですが、近年では腹膜透析の方が予後はよいとの報告があります。

腹膜炎は死亡率の増加に関連する重大な合併症で、感染を繰り返すと腹膜障害により透析療法の効果が低下します。腹膜透析に関連した腹膜炎の発生頻度は低く、2~3年に1回程度です。通常はグラム陽性球菌(皮膚常在菌)が原因で、カテーテルを取り扱う際の適切な皮膚衛生と無菌的手技が重要となります。

腎移植

平均余命とQOLを改善し、透析と比較して医療コストの大幅な削減をもたらします。わが国では深刻な死体腎提供不足のため、生体腎移植に依存しています。その一方で、生体腎ドナーが腎臓を提供することで末期腎不全に至るリスクが増加するという問題があります。

また血液透析や腹膜透析を開始する前に施行される先行的腎移植が行われることもあり、有用性が示されています。

図1 RRTの種類

RRTの種類

RRT導入は尿毒症の症状や検査所見(脳症、嘔吐、肺水腫、高カリウム血症、出血)およびeGFR<15mL/分/1.73m2で判断します。

合併症と治療

血液透析や腹膜透析では次の合併症が起こることがあります。

感染症

感染症は末期腎不全(ESKD: end stage kidney disease)における死亡原因の第1位です。透析患者では、B細胞の減少やT細胞による免疫反応の低下に加え、穿刺により皮膚から細菌が侵入する危険があります。発熱の原因は感染症が多く、悪寒戦慄(毛布をかけても体の震えが止まらない)がある時は菌血症の可能性が高くなります。

透析時に脱血や返血で使用するバスキュラーアクセスの感染が48~89%です1)。バスキュラーアクセス以外の感染症の存在を確認するため、発熱以外に咳や痰、腹痛や下痢、頻尿や残尿感がないかを問診する必要があります。抗菌薬投与前に血液培養や痰培養、尿培養を考慮します。菌血症が疑われる場合には、血液培養の結果を待つことなく抗菌薬治療が開始されます。

心血管疾患

心臓突然死は第二の死因です。透析中の血清電解質の急激な変化や慢性的な容量負荷が心肥大を起こします。また、カリウムやカルシウムなどの電解質、血圧、体液量、pHの変化が不整脈の原因となります。

弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)も多く、透析中の急激な体液除去によって誘発される透析内低血圧は、臓器低灌流による心血管系および中枢神経系の障害を引き起こす可能性があります。また、透析患者は動脈硬化進行例が多いです。

むずむず脚症候群(RLS:restless legs syndrome)

むずむず脚症候群とは、安静時や夜間に生じる、下肢がむずむずするような不快感や異常知覚のことです。周期的に脚がぴくつき、不眠となる場合があります。原因は脳のドパミン系の機能異常で、鉄剤による鉄の補充やドパミン作動性抗パーキンソン病治療薬(プラミペキソール、ロチゴチン)が有効です。

メンタルヘルス

透析患者の5~10人に一人はうつ病を有している可能性があります。不眠(または過眠)、食欲低下(または過食)、抑うつ気分、今までに楽しめていたことが楽しめないという症状があれば、担当医に連絡することが必要です。

かゆみ

そう痒症の病因は明らかではありません。透析患者の約70%程度にみられます。夜間や透析中(または透析直後)に背部や顔、シャント肢を中心にかゆみを訴えることが多いのが特徴です。保湿剤、タクロリムス軟膏、ステロイド外用薬が治療に用いられます。訴えがなくても、かきむしったあとがあるかどうか、皮膚の観察を行いましょう。

透析患者で注意すべき薬剤

腎機能が低下している透析患者には注意すべき薬剤があります。表1に主なものをまとめました。また、薬剤投与量の一覧表は日本腎臓病薬物療法学会のホームページから無料で閲覧ができます。

▼日本腎臓病薬物療法学会「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」
https://www.jsnp.org/ckd/yakuzaitoyoryo.php

表1 透析患者で注意すべき薬剤

慢性心不全治療薬                  予後改善薬とされるRAS(レニン・アンギオテンシン系)阻害薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプライシン阻害薬)β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)をすべて使用すると高カリウム血症や血圧低下を起こす可能性がある
降圧薬● 腎排泄型のβ遮断薬は減量して使用する
● 特殊な膜を用いた透析ではACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬の使用が禁忌となる
MRAは高カリウム血症のリスクが上昇する
抗凝固薬直接経口抗凝固薬(DOAC:direct oral anticoagulant)は禁忌
ワルファリンを使用することもあるが、出血性合併症に厳重な注意が必要
脂質異常症治療薬● すべてのスタチンとペマフィブラート、エゼチミブは使用できる
ベザフィブラートフェノフブラートは禁忌
血糖降下薬● インスリン、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬(腎排泄型では減量)が用いられる
SU(スルホニル尿素)薬メトホルミンピオグリタゾンSGLT2阻害薬は避けたほうがよい
鎮痛薬● アセトアミノフェンは常用量で使用できる
トラマドールプレガバリンミロガバリンは減量が必要
モルヒネコデインは代謝物が蓄積するため避けたほうがよい

訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント

発熱があれば、バスキュラーアクセス部位の発赤や腫脹、咳や痰、腹痛や下痢、頻尿や残尿感についてアセスメントします。

設定されたドライウェイト(身体に溜まった余分な水分を透析療法によって取り除いたときの体重)を基準とした体重増加、心不全を示唆する夜間発作性呼吸困難、SpO2低下、肺のcrackles(クラックル)、頸静脈怒張、下腿浮腫について確認し、心不全をできるだけ早期に発見します。

不眠(または過眠)、食欲低下(または過食)、抑うつ気分、今までに楽しめていたことが楽しめない気持ち、希死念慮について確認します。

最新トピックス
透析の差し控えや継続中止の決断に至った場合、保存的腎臓療法(CKM:conservative kidney management)を行う必要があります。CKMには共同意思決定(SDM:shared decision making)と患者中心のケア、積極的な症状管理、アドバンス・ケア・プランニング(ACP:advance care planning)の重視、末期腎不全(ESKD:end stage kidney disease)の進行を遅らせるための介入が含まれています。

CKMとRRTの比較に関するシステマティックレビューによれば、生存率はRRTのほうが有意に良好でしたが、QOLについては同等あるいはCKMのほうが良好な傾向にあったことが報告されています。

患者の意思の尊重

患者が自分らしく、よりよい最期を迎えることができるよう、人生の最終段階における医療とケアを進めていくことが大切です。医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされたのちに、患者本人が意思を決定することが重要です。本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合には、家族の希望を問うのではなく「ご本人がもし意思表示できるとしたらどのように仰ると思いますか」と家族と医療従事者で患者の意思を推定する必要があります。

キーポイント

● eGFRが30mL/分/1.73m2未満(G4)の患者は、腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)について教育を受ける必要があります。
● 透析の合併症では感染と心臓突然死に注意します。
● 透析患者では薬の減量が必要になることや使用禁忌の薬があります。

 

執筆:山中 克郎
福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問
医師 山中 克郎
1985年 名古屋大学医学部卒業
名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。

編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)Vandecasteele SJ,et al.:Staphylococcus aureus infections in hemodialysis: what a nephrologist should know.Clin J Am Soc Nephrol 2009;4(8):1388-400.

【参考文献】
○日本腎臓学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,東京,2023.
○日本透析医学会:2022年慢性透析療法の現況.2022年末の慢性透析患者に関する集計,2022.
https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2022/pdf/01.pdf
2024/07/8閲覧
○Chick D,et al.:Chronic kidney disease.MKSAP19 Nephrology,American College of Physicians,p75-91,2021.
○坂井正弘他編集:透析療法のすべて.Hospitalist 2023;11(2).
○透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会:透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌 53(4):173~217,2020
○Tsai HB, et al.:Conservative management and health-related quality of life in end-stage renal disease: a systematic review.Clin Invest Med 2017;40(3):E127-E134.
○Ren Q, et al.:Quality of life, symptoms, and sleep quality of elderly with end-stage renal disease receiving conservative management: a systematic review.Health Qual Life Outcomes 2019;17(1):78.
○厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf
2024/7/8閲覧

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